
「初級」「中級」「上級」と制覇した皆さん。
ここまで牛のこと、設備のこと、科学のことを学んできました。
しかし、酪農を語る上で、絶対に欠かせない存在があります。 それは、酪農家さんと共に汗を流す「専門職(スペシャリスト)」たちです。
酪農家さんは、すべての作業を一人でやっているわけではありません。 特定の技術に特化したプロフェッショナルたちが牧場を巡回し、チームとして美味しい牛乳を作っているのです。
今回は、そんな酪農家を支える専門家たちを紹介します。 道ですれ違う「社名入りの軽トラ」や「作業着の人」を見る目が、今日から変わるはずです!
① 酪農ヘルパー
【意味】 酪農家さんが休日を取るときや、冠婚葬祭、怪我・病気のときに、代わりに搾乳やエサやりを行う代行スタッフ。 どんな牧場のシステムにも即座に対応する「酪農作業の“代行プロ集団”」です。
【ここがポイント】
「生き物相手に休みはない」と思われがちですが、人間には休みが必要です。 そんな時、安心して牧場を任せられるのが彼ら。
A牧場とB牧場では、機械も手順も牛の性格も全く違いますが、ヘルパーさんはそれを完璧に把握して仕事をこなします。
彼らがいなければ、道東の酪農は成り立ちません。 まさに地域の持続を支えるスーパーヒーローです。
② 獣医師(じゅういし・大動物獣医師)
【意味】 牛の健康を守るお医者さん。 犬や猫を診る「小動物獣医」とは違い、体重600kgを超える牛と格闘する「大動物獣医」です。
【ここがポイント】
「牛のお医者さん」の仕事は、風邪やケガの「治療」はもちろんですが、病気にならないための「予防」も超重要です。 また、繁殖(妊娠)においては、なかなか妊娠しない牛の治療や、「妊娠しているか?」を確認する「鑑定(診断)」のプロでもあります。
片手に長い手袋をして、牛のお尻から手を入れている獣医さん。 あれは「直腸検査」といって、お腹の中の子牛の状態や、卵巣に異常がないかを指先の感覚だけで診察しているのです。 エコー画像診断や手術もこなす、高度な医療スペシャリストです。

引用元:枝幸町】新人獣医さんのこれまでとこれから。 | 北海道の人、暮らし、仕事。 くらしごと
③ 家畜人工授精師(かちくじんこうじゅせいし)
【意味】 牛に人工授精を行い、妊娠させる技術を持つスペシャリスト。 通称「授精師(じゅせいし)さん」。
【ここがポイント】
酪農において、牛乳が出るのは「赤ちゃんを産んだ後」だけ。 つまり、牛を確実に「妊娠させること」は、牧場経営の生命線です。授精師さんは「種付け」のプロです。
彼らは、マイナス196℃の液体窒素が入ったボンベ(銀色のタンク)を持ち歩いています。 その中には、凍結された精液ストローが入っており、発情のタイミングをミリ単位で見極めて授精させます。 「どのお父さん牛を選ぶか?」を農家さんと相談し、次世代の牛をデザインする、未来を作る仕事人です。

引用元:北海道別海町×家畜人工授精師/法人 (北海道別海町) 正社員/契約社員の求人情報 | 農業・酪農求人あぐり
④削蹄師(さくていし)
【意味】 伸びた牛の爪(蹄)を切り、形を整える専門の技術者。
【ここがポイント】
牛の爪は、人間と同じで伸び続けます。 爪が伸びすぎたり形が悪くなったりすると、体重数百キロの巨体を支えられず、ストレスで乳量が減ってしまいます。
そこで登場するのが削蹄師。 暴れる牛の足を巧みに固定し、専用の鎌(カマ)やグラインダーを使って、ミリ単位の精度で爪を削り上げます。 その手捌きは、まさに伝統工芸のような職人技。 道具を満載したトラックを見かけたら、そこには牛の足元を守る職人がいます。

引用元:GREEN WEB|牛削蹄師/北海道「酪農」を、支える仕事。
⑤コントラクター(農作業受託組織)
【意味】 牧草やデントコーンの収穫作業を専門に請け負う組織。 巨大なトラクターやハーベスター(収穫機)を何台も連ねて作業する、収穫の特殊部隊です。
【ここがポイント】
「一番牧草」や「デントコーン」の収穫時期。 畑で映画のような巨大重機が隊列を組んで走っているのを見かけませんか? あれは農家さん個人ではなく、この「コントラクター」が作業している場合が多いです。
「エサ作り」をプロに任せることで、酪農家さんは「牛の世話(搾乳)」に集中できます。 広大な道東の大地で、短期間に効率よく収穫できるのは、この分業体制(チームワーク)があるからこそなのです。

引用元:北海道のコントラ組織、前年から4組織増加|酪農乳業速報
⑥ 農業協同組合(JA)
【意味】 農家さんが集まって作った組織。一軒の農家では難しい「牛乳の販売」「資材の購入」「お金の借り入れ」などをまとめて行います。
【ここがポイント】
牛乳を食卓へ繋ぐ:
毎日各牧場から集乳車(ミルクローリー)で生乳を集め、品質を管理し、乳業メーカーへ販売する窓口となります。
営農指導員:
牛の育て方や牧草地の管理、経営の数字に至るまで、農家さんと二人三脚で考える専門スタッフ(営農指導員)が在籍しています。
生活のインフラ:
肥料やエサの供給だけでなく、ガソリンスタンドや金融(JAバンク)、共済(JA共済)など、農家さんの生活全般を支えています。
【※農業協同組合(JA)について】 本来、JAは酪農だけでなく、お米、野菜、果物など、日本のあらゆる農業を支える総合組織です。地域によっては野菜がメインのJAもあれば、お米がメインのJAもあります。 今回は「酪農編」として紹介しているため、特に酪農に特化した活動(専門の酪農農協や、総合農協の中の酪農部門)にフォーカスして解説しています。
まとめ:美味しい牛乳は「チーム」で作られている
農家さんの生活を支える酪農ヘルパー。
牛の健康を守る獣医師。
次世代の命を繋ぐ授精師。
職人技で足元を整える削蹄師。
大地で重機を操るコントラクター。
地域のインフラと流通を束ねる農業協同組合。
私たちが飲む一杯の牛乳の背景には、酪農家さんだけでなく、多くのプロフェッショナルたちの技術と連携が詰まっています。
これで「酪農用語解説」シリーズは完結です。 用語を知り、背景を知り、チームワークを知る。 そうすれば、道東の景色はもっと解像度が高く、鮮やかに見えてくるはずです。
ぜひ、この知識をポケットに入れて、道東の旅を楽しんでください。 そして、美味しい牛乳を飲んで、この「チーム・酪農」を応援していただければ幸いです!




