「性選別精液」「ET」「F1」…これが分かれば業界人!?酪農の深淵を覗く『酪農用語』解説【上級編】

「初級編」「中級編」をマスターした皆さん。
牛の体調や、エサの秘密までは理解できたと思います。
→初級編はこちら!
→中級編はこちら!

シリーズ完結となる「上級編」では、目に見える風景の話から一歩踏み込み、「生命の神秘」と「経営戦略」に関わる専門用語をご紹介します。

「なぜ、ホルスタインの牧場に黒い子牛がいるの?」
「牛の性別はコントロールできるって本当?」

ここに出てくる単語を知っていれば、あなたはもう素人ではありません。
酪農家さんが「えっ、そんな言葉も知ってるの?」と驚くこと間違いなしの、ディープな世界へご案内します。


酪農家さんにとって「牛を妊娠・出産させること」は、牛乳を搾ることと同じくらい重要です。 ここでは、効率的に優秀な牛を育てるための、高度な繁殖用語を紹介します。

① 性選別精液(せいせんべつせいえき)

【意味】 特殊な技術を使って、人工授精の段階で「メスが生まれる確率を約90%に高めた」精液のこと。

【ここがポイント】
酪農において、牛乳を出してくれるのは「メス」だけです。 後継牛(将来の母牛)を確保したい場合、オスが生まれると(お肉にはなりますが)牛乳生産の計画としては計算外になってしまいます。

そこで登場するのがこの技術。
「高確率で後継ぎのメスが欲しい!」という優秀な母牛には、この精液を使います。
科学の力で実現する、現代酪農の必須技術です。

② ET(イーティー / 受精卵移植)

【意味】Embryo Transferの略。

Embryo
※一般的には「受精卵」と呼ばれます。
意味: 精子と卵子が結合し、細胞分裂を始めた「赤ちゃんの種(元)」のこと。

Transfer
※ここでは「母牛の子宮から採り出した受精卵を、代理母の子宮へ移す」ことを指します。
日本語: 移植(いしょく)
意味: ある場所から別の場所へ移すこと。

優良血統の雌牛にホルモン注射をして多数の卵子を排卵(過剰排卵処置)させ、優良な雄牛の凍結精液を人工授精し、授精後7日目に子宮を洗浄して受精卵を採卵。品質の良い受精卵を選抜する。選抜された良質な受精卵は、凍結され保存し、生産者などに供給される。いわゆる「代理出産」です。

【ここがポイント】 牛の妊娠期間は約285日(人間とほぼ同じ)と長く、双子も少ないため、自然な繁殖で増やせるのは「1年に最大でも1頭」が限界です。 しかし、ETを使えば、1頭のエリート牛から採った複数の受精卵を「複数の代理母」が分担して産むため、1年の間に何頭もの子孫を残すことができます。

引用元:生産者の「もっと、近くに」を実践 全農ETセンター(上士幌町)現地取材 | 特集 | JAcom 農業協同組合新聞

③ ゲノム(ゲノム検査)

【意味】 牛のDNA(遺伝子情報)を解析し、その牛が将来どれくらい牛乳を出すか、病気に強いかなどを、生まれた直後に予測する技術。

【ここがポイント】
昔は、その牛が優秀かどうかは「大人になって牛乳を出し始めてから」しか分かりませんでした。
しかし今は、子牛の段階で「検査(毛根や血液)」をすれば、将来の成績表が分かってしまうのです。

「この子は将来有望だから、大切に育てよう」 「この子は能力が高そうだから、ETの親にしよう」
見た目や勘に頼らず、データに基づいて牛の一生をプランニングする。これが今の酪農のスタンダードです。


牧場にいるのは白黒のホルスタインだけ…
と思っていませんか?
実は、「違う種類」を産ませることもあるのです。

④ F1(エフワン / 交雑種)

※画像はイメージです

【意味】 品種の違う牛を掛け合わせた雑種のこと。 酪農においては主に「お母さんがホルスタイン(乳用)」×「お父さんが黒毛和牛(肉用)」の子供を指します。 全身が真っ黒だったり、少し白斑があったりします。

【ここがポイント】
牛乳を搾るための後継牛(メス)が十分に足りている場合、余剰な出産分は「お肉として高く売れる牛」を産ませた方が経営的にプラスになります。

ホルスタインの大きさ(育ちやすさ)と、和牛の美味しさを兼ね備えたF1は、国産牛肉として私たちの食卓を支えています。

黒い子牛を見かけたら、「なるほど、これはお肉としての価値を高める戦略なんだな」と理解しましょう。


⑤ 乳脂肪(にゅうしぼう)と 無脂乳固形分(むしにゅうこけいぶん)

【意味】 牛乳の成分を表す2大指標。

・乳脂肪:牛乳のコクや風味を決める脂肪分。
・無脂乳固形分:脂肪以外の固形分(タンパク質、カルシウム、乳糖など)。

【ここがポイント】
ただの成分表示ではありません。これは酪農家さんの「通信簿」です。 これらの数値は、エサの内容や季節、牛の体調によって毎日微妙に変化します。

特に冬場は乳脂肪が高くなり、夏場はさっぱりとした味になる傾向があります。 酪農家さんは、この数値を基準値以上に保つために、毎日エサの配合(TMR)をコンマ単位で調整しているのです。

※画像はイメージです


性別をコントロールする選別精液
遺伝子を残すET
将来を予測するゲノム
そして、お肉としての価値も生み出すF1

上級編の用語を知ると、酪農家さんが、ただ動物を育てているだけでなく、遺伝子レベルの計算と、緻密な経営戦略を持って仕事をしていることが分かります。

これで「初級」「中級」「上級」と続いた用語解説シリーズは完結です。 これらの言葉を頭の片隅に置いて、牧場風景を眺めてみてください。
きっと、今までとは全く違う、深くて面白い世界が見えてくるはずです。

さあ、これであなたも立派な「酪農マニア」。
美味しい牛乳を飲みながら、ぜひ周りの人に豆知識を披露してみてください!

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